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ルイヴィトントータリーpm編集

 二人は事件の話をしていた。  河野は明日香に答えた。 「それはですね、妹が稲垣の秘密を知っていたからですよ」 「秘密って……何でしょう?」 「これを見て下さい」  河野はポケットから何かを取りだした。  それは、ワープロで打たれた短い文章であった。 「説明しましょう。これは妹の美紀が、殺害される寸前、稲垣にあててワープロでしたためた手紙の一部です。私の相棒の野津原君が、妹の部屋からフロッピーを見つけてくれました。まず読んで下さい」  河野は明日香に印刷されたものを、渡した。  明日香は、それに眼を通した。 「……課長、私、知っています。もう危ないことは、やめて下さい。今までだってずい分、ハウジングのお客様の預かり金を転がしてきたのに、それに加えて伊集院明日香さんから預かった権利書などを悪用して、一時的とはいえ、銀行からそんな大金を引きだしたりすると、とんでもないことになります。今のうちにやめないと、私、課長のこと、上司や警察や伊集院明日香さんに、何もかも打ち明けます」  ざっと、そういう文章であった。  明日香は、文面から顔をあげた。 「おおよそ、見当がつきましたか?」 「ええ。私、登記所にも行ってきました。これを読んだら、事情は少しは察しがつきます。美紀さんって、私をかばおうとしてらっしゃったのね。それで、稲垣に殺されたなんて……」 「いえいえ、かばおうなんて大それたことじゃない。惚れた男である稲垣に、それ以上の過ちを犯させて破滅させたくはなかったのでしょう」 「でも……でも……私、信じられません。稲垣は使い込みをするような男だとは、どうしても思えません。よほど何か、事情があったのでしょうか」 「そうですね。稲垣は、奥さんもご存知のように、南急ナポレオンにおいて、資産管理のためのアパートやマンション経営など、パーソナル・プロジェクトといわれるものを担当し、プランニングの段階から、すべての企画立案の責任者となって、客と接していました。いわば、エリートでした。しかし、客から多額の資金と資産を預かって、運用するというやり方に、陥し穴があったのかもしれません。その信用供与方式に目が眩んで、客から預かっていた金で財テク全盛時代の株に手をだし、例のブラックマンデーを初めとする二度の暴落で、彼は大きな穴をあけたようなんです」
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